Chihoのちょっとした話

 

【日本人も頑張ってるぞ】

 9月17日、北フランスで行われたGPディズベルグを観に行ってきた。このレースは、カテゴリー2のレースで、チミル、ヴァンペテヘンなどワンデーレースを得意とする選手がわんさか。そんな中に混じって、「いましたぁ!」ベッソンショッスールの水谷選手。チームカーの中でワイワイ、チームメイトとフランス語で会話していた。今日はメカニシャンの小松君も来ていた。3人で世間話をしたあと、私はこのレースのもう一人の主役、トニステイナーの三船選手を探しにぶらぶらと歩く。その途中で、見覚えのある顔発見。なんと、北の地獄パリ〜ルーベで2年連続優勝した男、デュクロ・ラサールが来ていた。衛星放送スポーツチャンネルのコメンテーターとして来ているらしい。


スタート前の水谷選手と三船選手

 選手が束になってやってくる方向へ歩いて行くが、トニステイナーのチームカーは見当たらない。スタート時間が迫りつつあるので、断念してUターンし始めると、後方から私を呼ぶ声が。真っ黒で国籍不明の三船選手が横を通りすぎていった。三船選手がサインし終えるの待ち、コース上で話をしていたところへ水谷選手登場。これで、ヨーロッパで活躍中のトッププロ2人が揃った。私はこっちでよくレースを観に行っているけれど、2人の日本人選手が参加したレースを見るのは、98年にサンドゥニでサッカーW杯の前座的に行われたレースでの橋川選手&三船選手以来これが2度目。応援のし甲斐が2倍あってうれしい。それに、くどいようだが周りはすごいメンバーだし。
 久々に会った2人はプロ同士の話に花を咲かせ、あっという間にスタート時間になった。私はベッソンショッスールのマッサーをしているアランの車に同乗させてもらうため、チームカーへと向かう。スタートしても、スタート地点を数周してから、大回りするコースなのでスタート後も楽しめる。1周目、1人が逃げていた。2周目、数人が逃げていた。横でアランが「タケ〜!」と叫ぶ。「チホ、先頭にタケがいたの観たか?」と言われたが、カメラを除いていた私の眼中にそれらしき人は…。それもそのはず、私の目に映ったレースは横の写真だったから。こんな良いポジションにいたとは。
 何はともあれ、幸先好調でレースが始まった。


これが、先頭グループ。この中に水谷選手がいるんです。見つかりました?
2番手、ボンジュール(青)の選手の影です。
分かるかな?


 アランの車で補給地点へ向かう。アランには先週のレースでも車に乗せてもらったので、もう顔なじみ。一人で車を運転し、補給食を準備し配る。補給地点での場所取りが重要で、「どこがいいかな?」と補給地点の区間を行き来する。そして、チームカー(ワゴン車)をコースに沿って斜めに、車の側面が一目で分かるように止める。
 このあいだのレースでは、サコッシュの中にちっちゃなアメが入っていて、「こんなの食べられるのかな?」と思ったが、今回は缶入りのオレンジジュースが入っている大当たりサコッシュが2つあり、「こりゃ重そう」と思いながら、アランのお手伝いをする。選手が捨てるサコッシュを狙いに、観客達も集まってきて、いろんなチームスタッフと会話を交わしている。

 レースは9人くらいの逃げが決まっていて、その中にベッソンショッスールのエース、ヤコブレフがいるので監督車は先頭グループのうしろに付いている。このようなレースで大変なのが補給だ。ツール・ド・フランスのような大きなレースでは、コースに監督車と副監督車の2台のチームカーが走っているので、渡し損ねたサコッシュをどちらかの車に渡すことができ、車から選手に渡す仕組みになっている。しかし、普通のレースではたいてい監督車の1台のみ。このような状態だと、補給地点で取りそこなった選手は、飲むものも食べるものもなく走る羽目になる。だから、この日の補給は重要だった。他のチームはたいてい2人がかりで補給をするようだが、ベッソンショッスールの場合、配る人はただ1人。アラン、大丈夫かな?



サコッシュを受け取る前の水谷選手

先頭グループにいたヤコブレフはすっとサコッシュを取って、いい調子で走って行った。いよいよこれから、アランの腕の見せどころ。車からかなり離れたところに陣取り、7つのサコッシュを腕と肩に持って、選手を待ち構える。シロップ水が入ったボトルに、紙パックのオレンジジュース、りんごパイ、シリアルバーなど8種類くらいの食料が入っていて、1つあたりけっこう重い。先週のレース、GPフルミーに出場していた水谷選手は、補給地点でサコッシュを取り損ね、結局はリタイアしてしまった。今回は大丈夫だろうか?自分が取るわけではないのに、緊張しながら待つ。集団が来た!スピードは下がっているものの、狭いコース上をひしめきあって来る。アランは、すばやく選手を見つけてアピールする。水谷選手は、集団のわりと前の方にいた。アランから、渡されたサコッシュをしっかりつかんで走っていく。でも、なんか重そう。
 よく見ると、サコッシュを2つも持っていた。サコッシュを取らずに走り去ってしまったチームメイトの分まで取ったようだ。大当たりの缶入りジュースでないといいけれど…

 ベッソンショッスールの選手が続々アランのところへ来てさっと取っていく。ほとんど完璧に配り、アランも一安心。この前のレースでは、補給地点で2選手がリタイアしてしまい、途中でもう1人を回収。他のチームの選手も2人乗せてゴールに戻ったので、車はぎゅうぎゅうだったが、今回は補給地点でリタイアしてしまう選手はいなくて車はガラガラ。気が楽だ。次はゴール近くの補給地点へ移動。途中時間があったので、車を止めてレースが通りすぎるのを待つ。


これがサコッシュを2つ持っている証拠写真。でも、ボケてる!

これまたボケてますが、右が三船選手です。
 アニョロット、セルゲイのいる先頭グループをゲドン含む数選手が追いかける。集団との差は開いているようで、なかなか来ない。数分後、集団が通過。まだ残っていますようにと願いつつ、目を凝らして日本人選手を探す。あっ、いた!三船選手の姿が集団の中にあった。「今、調子がいいねん」というだけあって、なんとか集団に入っていた。しかし、水谷選手の姿は…。アランも「タケの姿見たか?」と心配気味で聞いてくる。見てないよ〜。集団が通りすぎたあとも2人で誰か来ないか待っていたが、レース最後の目印であるボワチューバレー(回収車)が無情にも通りすぎていった。
 すぐさま最後の補給地点へ移動し、選手が来るのを待っていると、コースの反対方向からベッソンショッスールの選手がきた。なんとそれは、水谷選手だった。サコッシュをとった後に、取り損ねた選手を追いかけ、その後すぐのぼりに突入してしまったため、力尽きてしまったらしい。水谷選手は、少し休んでシャワーを浴びに行った。いよいよ最後の補給。ここでは、ドリンクだけを渡すことができる。アランは手にいっぱいボトルを持ち移動。私は車の横で、まだ走っているであろう三船選手が通過するのを待ち構えた。先頭グループが走っていくが、セルゲイはいない。遅れて来た数人の中にセルゲイの姿があった。三船選手はいるのか?集団が来たので紫のジャージを探すと、いたぁ!まだ、走っていてホッと一安心。あとは約12,5キロのコースを2周してゴールだ。
 アランと私は、シャワールームの方へ車を移動させる。遅れた選手たちが続々リタイアし、チームカーへ集まり始めた。車を止めた前の道がコースになっているため、最後の2周を選手たちと一緒に観戦。先頭はヴァンペテヘン、ゲドンなどがいる。それを、チミル、セルゲイなどの数選手が追う。そして、少し離れて集団が追いかける。三船選手も集団の中にいた。数分後、選手たちがどろどろになって戻ってきた。数キロはなれているので誰がゴールしたかよく分からない。(優勝はヴァンペテヘン)三船選手も無事ゴールして戻ってきた。気になる順位だが、本人曰く20位か21位。このレースの場合、20位ならUCIポイントが5つくので、三船選手は気が気でない。


最終周回、集団の中で走る三船選手

 自転車レースは1位じゃないと意味がないという人もいるだろうが、私はどうかと思う。特にヨーロッパで、本場のプロ選手と戦っていくには、完走する事はいい事だと思う。走り抜いたぞ!という事が記録に残るからだ。日本人の場合、アシストで力尽きて終わってしまう事が多いが、それはそれで仕方ないと思う。でも時には完走して欲しい。優勝はできなくても、こつこつとUCIポイントを稼ぐ事は、チームからの信頼も得られるし、他へ移籍する時にもアピールできる。だから、この20位か21位かという微妙な結果は三船選手にとって一大事のことだった。

 翌日、三船選手からメールが届いた。「昨日は21位…」
残念ながら今回はポイントを逃してしまったが、ぜひ来年もポイント稼ぎに頑張っていただきたい。自転車レース、特にスプリンターはどいうコースか分かっていないと走れない。以前キルシプーから聞いたのだが、「スプリンターは年を重ねて、やっと実力が出せる。平地のように見えるゴール前のコースでも、軽く上っているのか下っているのかを何度も走って知っていれば、最初のダッシュをかけるところを決める事ができる。ゴール前はそういうことを考えてるんだ」と言っていた。この事でもわかるように、スプリンターは経験が必要だから、適齢期は30歳すぎくらいだと思う。ツール・ド・フランスで活躍したウストもキルシプーも30歳をすぎてから輝き出したし。
 だから、今回リタイアしてしまった水谷選手の場合はまだヨーロッパでのレース経験が少ないだけで、これから勝てる可能性は十分ある。しかし、この時期になってベッソンショッスールが急遽スポンサーから降りてしまい、ヨーロッパでの選手生活が危うい状況だ。せっかくヨーロッパで経験を積みつつあるのに、日本に戻ってしまうのはもったいない。かつてマペイで活躍していた阿部選手もそうだと思う。2、3年では成績が残せなくて当たり前なのに、ヨーロッパでのチームが見つけられずに日本へ帰ってしまう。生活面では大変だが、ヨーロッパで走り経験を積んでいけば、日本人にも勝てるチャンスは必ず来ると思う。継続が必要なのだ。プロチームのスポンサーをしている日本の企業はもっとこういう選手をサポートすべきだと思うのだが…。

 三船選手も水谷選手もジャパンカップに同じチームで出場する。時差の関係で日本のレースは大変だと思うけれど、ぜひ頑張ってもらいたい。みなさんも、日本で応援よろしくね。

三船選手のHP(http://www.kinokawa.net/mmifune/index.html)に選手の視点から見たこのレースのレポートが書かれています。


おまけ


ベッソンショッスールでメカニシャンとして働く小松君

10月12日
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